いろは歌をはじめ数多ある無同字歌。
47(8)音47(8)文字、時代によって異なりますが、表音文字ひらがなを各1字だけ使って作った詩。
名作や古典から現代の優秀作まで。いくつか紹介。
数カ所ある専門サイトには、これらのほかにもまだ多数掲載されてます。
あめつちのうた 作者・年代不詳 古典
あめつちほしそら やまかはみねたに くもきりむろこけ ひといぬうへすゑ ゆわさる おふせよ えのえをなれゐて
天・地・星・空・山・川・峰・谷・雲・霧・室・苔・人・犬・上・末・硫黄・猿・生ふせよ・榎の枝を・馴れ居て
とりなうた 鳥啼歌 明治36年(1903)万朝報 埼玉 坂本百次郎作
とりなくこゑす ゆめさませ みよあけわたる ひんかしを そらいろはえて おきつへに ほふねむれゐぬ もやのうち
鳥啼く声す 夢覚ませ 見よ明け渡る 東を 空色映えて 沖つ辺に 帆船群れゐぬ 靄の中
たうゑうた (雨降歌) 本居宣長
あめふれは ゐせきをこゆる みつわけて やすくもろひと おりたちうゑし むらなへ
そのいねよ まほにさかえぬ
雨降れば 井堰を越ゆる 水分けて 安く諸人 下り立ち植ゑし 群苗 その稲よ 真穂に栄えぬ
「君臣歌」 細井広沢作
きみまくら おやこいもせに えとむれぬ
ゐほりたうへて すゑしける あめつちさかゆ よよわひそ ふねのろなは
君臣 親子 夫婦に兄弟群れぬ 井鑿り田植へて末繁る 天地栄ゆ 世よ侘びそ 舟の櫓縄
けふつのもじを 大田蜀山人
けふつのもじを えてまなび ちいうにめなよゐ たはれごとわざゆゑ あからめせず おぼえぬるぞや ろくりむきみ
今日つの文字を 得て学び 智優に名能ゐ 戯れ言業故 赤ら目せず 覚えぬるぞや 六林君
「芭蕉」 週間読売 東京 塚本春雄氏作
なもふえき おくのほそみち うまとゑし ざよせわす ゐろり たびにやんで ねむらぬを
あはれいづこへゆめかける
名も不易 奥の細道 馬と絵師 座寄せ和す囲炉裏 旅に病んで眠らぬを あはれ何処へ夢駈ける
あゝ広島 週刊朝日 宮城 中川弘
あはれわが よごとゆめみる うせほろぶ むらのちまたや すゑおもひ さえゐてねぬに
なつくりそ げんしへいきを
あはれわが夜毎夢みる 失せ亡ぶ 邑の衢や 末思ひ 冴えゐて寝ぬに な造りそ原子兵器を
そだひ歌 万朝報 菱沼倉四郎作
そたひもえちる ゐろりへに しつのよさむを なけくみゆ めこおとうゑて かほやせぬ
あはれきいねん わらふすま
粗朶火燃え散る 囲炉裏辺に 賤の夜寒を 嘆く見ゆ 女子弟飢ゑて 顔痩せぬ
哀れ着寝ねん 藁衾
お江戸歌 西浦紫峰・作
おえとまちうた かせそよろ あおやきけふり ほんにすむ さみのねしめへ つはくらも
こひゆゑぬれて ゐるわいな
お江戸街唄 風そよろ 青柳けぶり ほんに澄む 三味の音締めへ 燕も
恋ゆゑ濡れて 居るわいな
をとめ歌 文芸春秋デラックス募集吟
をとめはなつむ のへみえて われまちゐたる ゆふかせよ うくひすきけん おほそらに
ねいろもやさし こゑありぬ
乙女花摘む 野辺見えて 我待ち居たる 夕風よ 鶯来けん 大空に 音色も優し 声ありぬ
あめつちうた、惶(かしこ)根(ね)草(ぐさ)
あめつちわき かみさふる ひのもとなりて ゐやしろを おほへゆには うらまけぬ これそたえせぬ すゑいくよ
天地分き 神さふる 日本成りて 居や代を 大御嘗斎場 占設ける これぞ絶えせぬ 末幾世
雪の故郷 週刊読売 久保道夫
ゆきのふるさと およめいり ゐなかあぜみち うまつれて わらやねをぬけ たんぼこえ はずゑにしろく ひもそへむ
雪の故郷 お嫁入り 田舎畦道 馬つれて 藁屋根を抜け 田圃越え 葉末に白く 陽も添へむ
新いろは歌 週刊朝日 小島豊徳・作
つまこたちを おもへは わかみ なえほそる あせにぬれ ふらとよろけ いねむりすくさめき ゆうひのてんしや
妻子たちを思へば わが身萎え細る 汗に濡れふらとよろけ 居眠りすぐさめき夕陽の電車
国音の歌、万朝報 東京 常盤千代
ほそやまかはの すゑをみよ ちふねむれゐる ひろせあり ゆめおこたらで わざとげん いつにしきえぬ なもうべく
細山川の 末を見よ 千船群れゐる 広瀬あり 努怠らで 業遂げん いつにし消えぬ 名も得べく
●明治36年、万朝報社2位 東京 堀 幸
堰(ゐ)塞(ぜき)稲植(いねう)え 刈(か)り収(をさ)む 負(お)ふ穂(ほ)も揃(そろ)ひ 土(つち)肥(こ)えぬ 希(まれ)に見(み)る夢(ゆめ) 安(やす)らけく あな楽(たの)し世(よ)と 我(わ)は経(へ)てん
●天地(あめつち)ひらけ(伝承) よみ人しらず
天地(あめつち)ひらけ 神(かみ)なり坐(ま)して とこ世(よ)やすく 尊(たき)える御物(おもの) われ食(は)む経(へ)ぬぬる 夷狄(えそ)滅(う)せ亡(ぼろ)ふ 豊栄(ゆさ)を稲(いね)
●雪中奇懐 横井也有
今(いま)雪(ゆき)より明(あ)け初(そ)むる 誰(た)れ植(う)ゑぬ花(はな)総(すべ)て咲(さ)く 得(え)匂(にほ)はねど弥(ゐや)珍(めづ)らし 炉(ろ)の火(ひ)を囲(かこ)み切思(せちおも)ふ
●すみのえなる 田中道麿
住(すみ)の江(え)なる 田(た)居(ゐ)に早乙女(さをとめ) 早稲(わせ)植(う)えぬ 稲刈(いねか)りてよ 落穂(おちぼ)拾(ひろ)へ子(こ)等(ら) 其従(そゆ)しも麦(むぎ)蒔(ま)け 粟生(あはふ)作(つく)れや
●現代作品? 八木はやお
古(ふる)きを混(ま)ぜて 値上(ねあ)げとは 与太(よた)にござんす 恨(うら)むぞえ 稔(みの)りも夢(ゆめ)へ ボロな知恵(ちゑ) お櫃(ひつ)可愛(かあい)や 時雨(しぐれ)居(ゐ)ぬ
◆週刊読売 昭和四十三年、入選作品
〈春ごろ歌〉 堀田六林・作
春ごろ植ゑし 相生の はるころうゑし あいおゐの
根松行く方 匂ふなり ねまつゆくえ にほふなり
齢を末や 重ぬらむ よわひをすへや かさぬらむ
君も千歳ぞ 芽出たけれ きみもちとせそ めてたけれ
〈新いろは歌〉 片桐大宙・作
小夜ひとり 山辺を行く さよひとり やまへをゆく
苔むせる石道に 梅の花 こけむせる いしみちに うめのはな
誰が笛ぞ 音も澄んで たかふえそ ねもすんて
おぼろ月 あらわれぬ おほろつき あらわれぬ
無同字歌の本家本元「いろは歌」
いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせす
色は匂へど 散りぬるを
我が世誰ぞ 常ならむ
有爲の奥山 今日越えて
淺き夢見し 醉ひもせず
以呂波耳本へ止千利奴流乎
和加餘多連曽津祢那 良牟
有為能於久耶万計不己衣天
阿佐伎喩女美之 恵比毛勢須