(1984年公開)
ストーリー
解説
考察
風の谷のナウシカ 歌詞
本編を次のように区切る。
1 風の谷 (1日目)
2 トルメキア軍 (2日目)
3 腐海 (3日目)
4 ペジテそして風の谷(4日目)
まずはあらすじ(みんなのシネマレビュー・【花守湖】さん)
戦争で文明が滅びた後の世界。ある日、世界制覇の野望を持つトルメキア王国の輸送機が小国「風の谷」に墜落した。そしてその中から昔全世界を焼き尽くしたといわれる「巨神兵」が見つかって大騒ぎ。しかもトルメキア王国と敵対するペジテ(都市)が、巨大な「王蟲」を操って、風の谷に駐留するトルメキア軍を、風の谷もろとも滅ぼそうと企んでいた。それを知った風の谷の族長の娘ナウシカは国の危機を救うべく、無謀にも王蟲たちの暴走を止めようとするが・・。
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1.風の谷 (1日目)
砂漠のような場所。霧の中に、何かの動物に乗った人影。
胞子が積もった荒れ果てた大地に、空を飛べず人の乗用として使われる鳥「トリウマ」、二頭いて名はカイとクイ(悔と悔?そうかもしれない)と、その1頭の背に荷物を置き、他の1頭にまたがった人物、辺境一の剣士ユパ・ミラルダが現れる。
ユパもトリウマも、瘴気マスクを装着。胞子の毒、腐海の瘴気から身を守っている。菌類植物は大きな胞子嚢から、呼吸するように胞子を吹き出している。
遠くに風車が見え、やがてその村に到着。近づいてみると、風車も家々も菌類に覆われていた。スリーマイル島原発の煙突を小さくしたような末広がりの煙突が2本ある建物があるが、工場なのだろうか。村の建物はどれも内外とも胞子に覆われ、子供のオモチャは転がっているが人の姿はなかった。
説明文が表示される。
「 巨大産業文明が崩壊してから1000年、錆とセラミックに覆われた荒れた大地に、くさった海…腐海(ふかい)と呼ばれる有毒の瘴気を発する菌類の森がひろがり、衰退した人間の生存をおびやかしていた」
久石譲のメインテーマが流れ、メインタイトル「風の谷のナウシカ」の文字の背景に「白い羽の女神」と瘴気を放つ蟲(ムシ)。スタッフロールのバックは、天空に浮かぶ巨大な客船やヨット、巨神兵の製造、巨神兵により焼かれる高層建築群、火の七日間の巨神兵の行進、炎で死にゆく人々・鹿のような動物・鳥類・樹木、崩壊し焼き尽くされ溶けおちる建物、空を飛ぶ人間の髑髏を咥えた蟲たち、王蟲と菌類、裁きの家から暗い夜へと逃げ出す人々、その人々が手を合わせて拝む先にいる青い服を着て白い翼をつけた女神の絵が、ヒエログリフか絵巻物のように流れる。火の七日間だけは動画だ。
絵巻物が終わると、青い空、白い雲につづいて、やや暗くなった雲海の上を、翼だけの一人乗り飛行機のようなもの、中心にジェットエンジン、その左右の、主翼の付け根に体操のあん馬の取っ手のようなものがついており、翼を上にしても下にしても、その取っ手を掴んで飛ぶことができるメーヴェが、鳥のように飛んでいる姿が映し出される。それを操っているのは本編の主人公、16歳の健康的な少女ナウシカ、世界から忘れ去られたような辺境の小さな村「風の谷」の族長、ジルの一人娘である。
眼下には、兜を着けたような巨神兵の頭部の化石も見える。森も見えるが、森はかつてのそれではなく、菌類が発達した胞子植物の腐海だ。緑色の部分もあるが、光合成を行っているのも菌糸植物。この腐海の毒が、拡がり続け、人々の生存を脅かしている。
メーヴェ備え付けの蟲封じの銃を肩に、腐海へ足を踏み入れるナウシカ。本編はここから始まる。
腐海植物の胞子を採集していたナウシカは、新しくできた王蟲の道を見つける。胞子の森に開いたトンネルのような道、そのさきに脱皮して間もない王蟲の抜け殻があった。
巨大な機関車かトレーラーのような重量感と圧迫感を持つそれは、ダンゴ虫を数千倍にしたような形(幼生も成蟲も同形)と大きさで、正面から見ると、マトリョーシカのように先端が次々と飛び出した小山のように見え、またはカーブしていない高さ5m長さ20mのクロワッサンを先端を正面にしてみているようで、最先端に口と口内にある触手、二・三層は甲殻のみで、四・五層に透明な球を半分に割ったドームのような目がある。目は、この画面では四・五層とも左右3つずつ計12個確認できるが、五層目には左右もう一つずつ一段下側にも目があり合計14個である。成蟲は長さ80mに達するものもあるらしい。
抜け殻はナウシカの持つセラミック刀では歯が立たず、たたくとキーンと大きなガラス製の風鈴のような音ではね返す。抜け殻の目は、無色透明の硬質ガラス製の半球状で直径1mほど。ナウシカは持参の粉末火薬で抜け殻の本体から眼球のドームを1つ切り離す。セラミック刀の材料になるのだ。そのとき誰かが蟲封じの銃を撃つのが聞こえる。
高い所から音のした方を見ると、向こうの森に焼夷弾の爆炎のように次々と、胞子の雲が舞い上がっている。王蟲が誰かを、胞子の噴煙を巻き上げながら追いかけているのだ。ナウシカは信号弾で誘導を試みる。
信号弾に応答があり、ユパとカイ・クイが、腐海から飛び出してくる。後ろから王蟲が腐海の植物を巻き込む猛スピードで追ってくる。(似たようなシーンが13年後「続・ナウシカ」ともいわれた「もののけ姫」冒頭で、アシタカを追うタタリガミとして再現されたなw)
体高10m体長30mほど、脱け殻より一回り大きい王蟲だ。成長したのか。その王蟲が目を真っ赤にしてユパを追う。赤い目は王蟲の攻撃色だ。ナウシカはかんしゃく玉のような光玉を投げる。オウムを傷つけるためではない。驚かせて王蟲を立ち止まらせるためだ。その閃光で王蟲は目を回した。目の光が失せ甲殻と同じ灰色になる。続いてはナウシカが蟲笛をならす。30センチほどの紐の先端に笛をつけ、投げ縄のように腕の先で降り回すことで、音を出す仕組みのようだ。映画「クロコダイル・ダンディ」でミッキーがやったアボリジニの通信方法にも似ている。
似ていると言えばナウシカも、ミッキーと同じようにあたかも会話をするかのように、動物の心が読めるものとして描かれている。
このときも、王蟲はナウシカの蟲笛で目を覚ます。目が気絶していたときの灰色から、平常色のライトブルーに変わる。すでに攻撃色の赤ではない。頭上を飛ぶナウシカの蟲笛に応えるように、ゆっくりと方向転換し、腐海の森へ帰っていく。
風の谷の入口、人工のものか自然のものかはわからないが、カッパドキアのカルストの尖塔のような塔が立ち並び、塔と塔の間にかけたロープにつるした鳴子が、風を受けて鳴っている。このあたりからは瘴気よけのマスクを外しても平気なようだ。
メーヴェから飛び降りたナウシカが、ちょうど到着したユパのもとへ駆け寄り、抱きついて1年半ぶりの再会を喜ぶ。ユパは腐海で見つけたキツネリスをウェストポーチに入れていた。このキツネリスが羽虫に攫われるところを見かけ、人間の子かと思い助けようとしたため、腐海を守ろうとする王蟲に追われる羽目になったのだという。ナウシカはこのキツネリスをもらい受けテトと名付ける。
テトを肩に載せ手を近づけるナウシカ。「ほら、恐くない。」ナウシカの差し出す指に噛みつくテト。「ほら 、ね 、恐くない」。ナウシカはテトが噛むにまかせる。テトはナウシカに敵意がないことを悟ったのか、そっと噛んでいた指から口を離し、自分がつけたその噛み傷を癒やすように舐める。
ユパは、ナウシカがよい[風使い]になったことを褒め、皆に変わりが無いかと尋ねる。なにか思い詰めたような顔でナウシカがこたえる。
「父がっ!!」一呼吸おいて静かに「父はもう飛べません。」
「ジルが!?森の毒がもうそんなに…」
「はい。腐海のほとりに生きるものの定めとか…。」
ナウシカはユパに、あとで、自分の秘密の部屋を見て欲しいといい残し、ユパ到着を谷のみんなに知らせるため、メーヴェで谷に向かう。メインテーマが流れる。
ユパは、王蟲の目や旅の荷物を背中に乗せたカイとクイを連れ谷に向かう。楚漢対立の頃の蜀の桟道のような崖沿いの細道を下り、立ち並ぶ尖塔の間から吹き出す風が霧となって流れる、谷の隘部を通り抜け、風車が立ち並び清水のオアシスを持つ「風の谷」に到着する。
「ユパ様!」「ユパ様!」ユパを見かけた村の住人は、爺も娘ッコも、皆駆け寄って来訪を歓迎する。
村の住居が建ち並びはじめるあたりには、ナウシカから知らせを受けた村人が、総出でユパを出迎える。
先に到着し、城の風車の修理をしていたナウシカが、それを済ませ、赤ん坊を抱いてきてユパに見せる。
「ユパ様。今年生まれたトエトの子です。」とナウシカはユパに手渡す。
「ほう。どれどれ。ふふ。おう。よい子だ。幼い頃のナウシカを思い出す。」
トエトが言う。「ドアか駒子の名付け親になって下さいませ。」 村人「いつも、いい風がその子に吹きますように。」
ユパ「引き受けよう。よい名を贈らせてもらうよ。」
トエト「ありがとう。どうか姫様のように丈夫に育ちますように。」
ミト「ん。丈夫というなら姫様は折り紙付きじゃ。じゃが腐海遊びまで似ると困るぞ。」
ナウシカ振り向いてミトに「でも、おかげで王蟲の殻を見つけたのよ。」
ミト「しかし、城オジの私の身にもなってみろ。心配でおちおちしておれんわい。」一同笑う。
ゴル「うはははは。王蟲の殻ともなれば姫様の腐海遊びも無駄とは言えんのう。」
ユパ「そうとも。ワシもそれで助けられたのだからな。」一同また笑う。
風の谷は、巨大な山脈が海に向かって開ける場所で、両側から山の端である高い崖がせまり、なだらかに谷を下った先には海が見えている。この海が、「酸の湖」なのか、別に「酸の湖」があるのかは映画画面で確認できなかった。ただ海からは潮風が吹いているらしいので、「酸の湖」ではない海があるのは確かだろう。谷はその潮風により腐海の胞子による浸食から守られているらしい。オアシス、大ババは貯水池と呼んでいる、のまわりは昔ながらの種子植物に見える木々が、森となって囲んでいる。谷のあちこちに、針葉樹・広葉樹にしか見えない木立がある。
それでも腐海の毒は確実に人々をむしばんでいたる。ミトやゴルたち城オジとは、長年腐海の毒を浴び続けてきた老人で、毒で四肢が硬化し、関節の動きがおとろえた者たちである。四肢の硬化が現れるのは、谷から外に出る機会の多かった男性がほとんどなのだろう。族長であるジルは、道具の材料の調達などで、住民男性を引き連れ、先頭に立って行動していた、あとで映像として見るナウシカの夢のように。だから毒の侵攻が誰よりも早かったのかもしれない。なお、大ババの目が盲いたのは、蓄積された腐海の毒によるものか、老齢の故かは不明である。物語に医者が登場しないので、自己申告を待つしかない。
城のジルの部屋。ユパがジルを見舞っている。ナウシカと大ババもそばにいる。ベッドのジルが、ユパに旅について問うと、
「ひどいものだ。南でまた二つの国が腐海に飲まれてしまった。腐海は着実にひろまっている。なのにどこに行っても戦に飢え。不吉な影ばかりだ。何故この谷のように暮らせぬのか。」
ジル「どうだ、ユパ。そろそろこの谷へ腰を据えぬか。ワシはこのザマだ。皆も喜ぶと思うが。」
大ババ「ハハハ。無駄じゃよ。ユパはさがし続けるよう定められた男じゃ。」
ユパ「定めか。」
ナウシカ「大ババ様、さがすってなに?」
大ババ「おや、ナウシカは知らなかったのかい。ほれ、壁の旗にあるじゃろ。わしにはもう見えぬが左の隅にいるお方じゃよ。
そのもの蒼き衣をまといて金色の野に降り立つべし
失われた大地との絆を結び
ついに人々を青き清浄の地に導かん 」
ユパ「婆サマ、からかわれては困る。私はただ腐海の謎を解きたいと願っているだけだよ。 - 我々人間は、このまま腐海に飲まれて滅びるよう、定められた種族なのか、それを見極めたいのだ。」
2.風の谷とトルメキア軍 (2日目)
未明、ミト、ゴル、ミトに起こされたナウシカ、何かを感じて駆けつけたユパの4人が立つ、城の見張り台の頭上をかすめるように飛ぶ飛行船。軍事国家トルメキアの大型船だ。ほとんど飛行船の来ない風の谷へ、なぜと、考える前に、飛び方の異常に気づくナウシカ。
「不時着しようとしている。対岸に誘導する。」とメーヴェで飛び立つナウシカ。
トルメキアの船は、前後の4枚羽根で胴体を太くしたB-29のような形をしており、プロペラの並ぶ翼にも胴体にも、小型の王蟲のような蟲がびっしり貼りついていた。どういう理由か、一度腐海に着陸し、ふたたび飛び始めたもののようだ。そのときに蟲が貼りついたらしい。船の進む方を見たナウシカが「舵を引けーっ!」と叫ぶが、船には届かず、谷を形成する山の崖面に衝突。爆発炎上するトルメキア船。ナウシカは墜落直前に船窓に見えた女の子を探す。
炎の中、燻る残骸の下に、手錠をつけられた女の子が意識もなく倒れているのを見つけ、助け出すナウシカ。女の子も気がつき、ここはどこか問う。「風の谷よ。喋ってはだめ。」と話をやめさせ、女の子の衣服をくつろげるナウシカ。少し服の胸を開いたところで、何かを見てハッとして、くつろげた衣服をふたたび整える。手の施しようがないのだろう。あとは女の子の喋るにまかせる。苦しい息の下で話し始める娘。
「私は、…うっ、ベジテのラステル。積み荷をっ!積み荷を、燃やして…」「積み荷?」「お願い。燃やして。」
「積み荷ねっ。…。だいじょうぶ。みんな燃えたわ。」ナウシカの声に安心したように「よかった…」とつぶやき、息を引きとるラステル。ナウシカはラステルの手錠の鎖をセラミック刀で切る。城から駆けつけたミトが娘の衣服と装身具を見て言う。「この方はベジテ市の王族の姫君ですな。」
城からは大勢駆けつけ、消火などしていたようだが、船に貼りついていた蟲の中に、焼けずに生き残っているものがいた。
「蟲だっ。ウシアブが生きているぞ!」 「まずいっ。仲間を呼んでいる。」
ウシアブは牛にたかるアブではなく、牛ほどの大きさのアブ。牛は既に絶滅しているようだ。
「傷ついて飛べないんだ。銃を持ってこいっ。」 「だめだ。銃で撃つと仲間を呼ぶぞ!」 「即死させる。」 「ウシアブが銃で死ぬかっ!」 「じゃあ…どうするんだ?」
そこへナウシカ「待って。ミト、メーヴェを持ってきて。」
ナウシカは蟲笛を取り出し、攻撃色で目を赤く染め顎をふるわせ仲間を呼ぼうとする体長2メートルほどのウシアブに近づく。
「森へお帰り。だいじょうぶ。飛べるわ。」
ゆっくり羽ばたくウシアブ、ナウシカは蟲笛を上空に放り投げる、それにつられて浮上するウシアブ、ナウシカもメーヴェで飛びあがり蟲笛をキャッチ。そのままウシアブを森=腐海の方へ誘導する。
腐海へと飛びゆくウシアブを見送るナウシカ。ふと気づくと、地上に王蟲。ウシアブの一件をすべて承知しており、人間がウシアブ、王蟲にとっては腐海の一員つまり守るべき腐海の一部、をどう遇するのかを、じっと観察していたかのように佇んでいる。ウシアブが腐海に戻るのを見届けて、王蟲も帰って行くのだ。
風の谷の住人たちは、墜落機の後片付けに追われていた。特に注意深くさがさなければならないのは、蟲とともに機体に貼りついてはこばれてきたはずの胞子。潮風にさらされず直接運ばれてきてはたまったものではない。一つでも見逃すとたちまち繁殖し、谷も腐海に沈む。
谷の子供たちも大人たちとともに必死で捜索、一つ見つけては炎で焼く。もう胞子嚢になっているものもある。ひとつも見逃せない。瘴気を出し始めると毒が全体に回ってしまい、生きるためには長年住み慣れた谷を捨てるしかない。
墜落船の積み荷の中に、ほとんど焼けずに燃え残っている塊があった。その塊は脈打っているように見える。それを見ながら、ユパがミトに話す。
「旅の途中で不吉な噂を聞いた。ベジテ市の地下に眠っていた旧世界の怪物が掘り出されたというのだ。巨神兵だ。」
「巨神兵?!あの『火の七日間』で世界を焼き尽くしたという?!こいつが…」
「巨神兵はすべて化石となったはずだった。だが地下で千年も眠り続けていたやつがいたのだ。」
墜落したトルメキア船の乗員たちの死体を埋葬するナウシカたち谷の民。そこにトルメキアの大型船4機と多目的戦闘艦コルペット1機が来襲。
谷の住民に城へ避難するよう呼びかけ奔走するナウシカ。その城の方を見るとトルメキアのコルペットがまさにとりつこうとしていた。「父上っ!」と叫び声を上げ城へ向かうナウシカ。腐海の毒で立ち上がることもできなくなっているジルは、牀上で剣を抜き
ジル「ババ様は隠れておれっ。」 大ババ「私はここにいるよ。」
ジルの部屋の扉が開きなだれ込むトルメキア兵。
ナウシカが城に着いたとき、ジルの部屋の方から数発の銃声。階段を駆け上がりジルの部屋に飛び込んだ、ナウシカの目にうつったものは、ジルの骸とトルメキア兵。憤怒で髪を逆立て形相を一変させトルメキア兵に斬りかかるナウシカ。たちまちトルメキア兵数名を斬り殺し、トルメキアの参謀、クロトワの剣を砕き、新たに入ってきた重装歩兵の鎧にも斬りつけるナウシカ。もののけのサンのように、鞠のごとく弾み後方回転し、大ババの静止も聞かず、弾みをつけトルメキア重装歩兵に剣を突き出す。
そこに、ユパが飛び込む。重装歩兵とナウシカの間に割って入り、重装歩兵の兜と鎧の隙間から首に剣を突きつけ、ナウシカの突き出した剣を左腕で受けて言う。
「双方、動くな!動けば王蟲の殻より削り出したこの剣がセラミック装甲を貫くぞ。
-- トルメキア兵に聞く。この谷の者は、昨夜、そなたたちのの船を救わんと必死に働いた。今もまた、死者を丁重に葬ったばかりだ。
小なりとはいえ、その国に対するこれがトルメキアの礼儀か!
戦を仕掛けるならば、それなりの理由があるはず。まず、使者をたて口上を述べるべきであろう。」
ナウシカの突き出した剣は、ユパの左腕に突き刺さり、ユパの血が剣を伝ってしたたり落ちている。
今は父を殺された恨みも忘れ、自分が突き通した師父の腕からしたたる血を呆然と見つめるナウシカ。
「ナウシカ、落ち着け。落ち着け、ナウシカ。今戦えば、谷の者はみな殺しになろう。生き延びて、機会を待つのだ。………」
まだ呆然とするナウシカ。剣を砕かれた際に頭を打ちもうろうとしていた参謀クロトワが、起き上がり拳銃を取り出す。
「えぇいっくそっ!小娘が。」
ナウシカに拳銃を向けようとするが、直属上官であるトルメキア帝国辺境派遣軍司令官のトルメキアのクシャナ皇女に制せられる。
「やめろ、クロトワ。」
「しかしっ…。」
クロトワが改めて周りを見渡すとナウシカに殺された己の部下の死体がごろごろ。クロトワはみんなに聞こえるように言う。
「あーあっ。なんてぇやつだ。みーんな殺しちまいやがった。」
クシャナはつづいてユパに言う。
「諫言、耳が痛い。辺境一の剣士、ユパ・ミラルダとはそなたのことか。
我らが目的は殺戮ではない。話がしたい。剣をおさめられよ。」
兜の目庇を上げ、威儀と礼を示す皇女クシャナ。
その目をじっと見つめた後、右手の剣を歩兵の首筋から外し、左手をナウシカの剣から抜くユパ。
それまで震えるように呆然と、自分の剣とその血を凝視していたナウシカは、ようやくその剣から師父の腕が抜き去られるのを見て、いつもの表情に戻るが、すぐ気を失いその場に崩れ落ちる。
ナウシカは、風を読み虚空に舞う「よい風使い」であるとともに、生き物、蟲や動物の心を理解しようとする、そしてある程度それができる「ふしぎな力」を持った娘だった。そのナウシカが、父を殺された怒りに我を忘れたとはいえ、ただ父の死体のそばにいた侵入者というだけで、幾人かの人間(画面上は4人)を殺害した。誰が、なぜ、父を殺したのかを確かめてもいない。
ユパの腕を突き刺したとき、なぜここにユパがいて自分の剣が刺さっているのだろうという驚愕と疑問がわき、それが、それまでの怒りをうわまわった。剣からしたたり落ちる血は、今は師父ユパのものだが、その前に数人の人間の血を吸っている、剣の血を見ながらようやくナウシカは自分のおこないに気がついたに違いない。クロトワの声も聞こえただろう。その結果が文字通りの自失である。
ユパの説得の言葉は、あとからようやくナウシカの心に入ってきた。そして、ナウシカは自分がいつも思っていた、「暴に暴で立ち向かっても互いに傷つけ合うだけ、相手のしたいようにさせて落ち着かせ、こちらの希望する方向へ向ける方がいい」ことを、ようやく思い出す。テトの噛むに任せて、テト自身を落ち着かせ、テトみずから懐かせる。ウシアブも王蟲も、まず落ち着かせて、彼ら自身で行動させた。私、ナウシカも、ユパ様から刺すに任されたことで、落ち着き自分を取り戻し、反省している。わかっていたことだ。暴力は愚かなことだと。なんということだ。私は人を殺してしまった。それも幾人も。
トルメキア軍から武装解除され、城の空堀にかけてある石橋の前の広場に集められる風の谷の住民。城の前には戦車がありトルメキア兵が並ぶ。ナウシカが素手であらわれ戦車の前に民の方を向いて立つ。戦車の上に立ったクシャナが民に告げる。容姿端麗、眉目秀麗な25歳の素顔を見せて。
「我らは辺境の国々を統合し、この地に王道楽土を建設するために来た。そなたたちは腐海のために、滅びに瀕している。我らに従い、我が事業に参加せよ。腐海を焼き払い、ふたたびこの大地をよみがえらすのだ。かつてにんげんをして、この大地の主となした、奇跡の技と力を、我らは復活させた。私に従うものには、もはや腐海(もり)の毒や蟲などに、おびえぬ暮らしを約束しよう。」
大ババがあらわれ戦車の前で、戦車、クシャナの方を向いて言う。
「待ちなされ。
腐海に手を出してはならぬ。
腐海が生まれてより千年。幾たびも人は、腐海を焼こうとこころみてきた。
が、そのたびに王蟲の群れが怒りに狂い、地を埋め尽くす大海嘯(おおなみ)となって押し寄せてきた。
国を滅ぼし、町を飲み込み、みずからの命が饑餓で果てるまで、オウムは奔(はし)り続けた。
やがて王蟲の骸を苗床にして、胞子が大地に根を張り、広大な土地が、腐海に没したのじゃ。
腐海に手を出してはならぬ。」
大ババとクロトワのやりとりがあり、病の族長ジルが殺されたことを知った住民たちの間に、不穏などよめきが起きるが、ナウシカが制する。
「みんな、待って。これ以上犠牲を出したくないの。この人たちに従いましょう。」
トルメキア軍の来寇の目的は、王道楽土の建設より、まずは巨神兵だった。クシャナの言にあった、この大地の主となるための技と力の復活、そのための風の谷の占領である。先の大型船は、おそらくベジテで掘り出されたものを、強奪してトルメキアに持ち帰る途中で墜落したのだろう。風の谷の住民も総出で、復活前の巨神兵の塊を移動させられている。
クシャナは、巨神兵を本国には持ち帰らず、風の谷で復活させようとこころみることにした。ベジテからの輸送では、巨神兵の重さに大型船でも耐えきれず、一度腐海に不時着したため蟲に襲われたもののようだ。クシャナは、やり残したことがあるのか一旦ベジテに戻ると言い、人質としてナウシカと城オジ5人が同行させられることとなった。風の谷に1機だけあったガンシップも没収された。
風の谷を離れて潜伏し、巨神兵復活を阻止する機会をうかがうことにしたユパが、そのことを告げようと、ナウシカの部屋を訪ねる。部屋は無人のようであったが、部屋にいたキツネリス、テトのおかげで、城の地下へとつづく階段を見つける。そこはナウシカが「見せたい」「怖がるといけないから、みんなにはナイショ」と言っていたナウシカの秘密の部屋があった。
そこは、まるで腐海植物園だった。ナウシカは腐海から胞子を持ち帰lり、ここで育てていたのだ。城の大風車で地下深くからくみ上げる清水と、その地下深くの砂とで育てると、猛毒のヒソクサリさえ開花時にも毒を出さない。瘴気を出すのは、汚れた土のせいだという。おそらく地球表面の大地は、風の谷の土ですら、汚染されてしまっている。
ナウシカはひとりこの部屋で、自分が人を殺してしまったことを悔いていたようだ。
「私…自分が恐い。憎しみに駆られて、何をするかわからない。もうだれも殺したくないのに…」
3.腐海 (3日目)
トルメキアの占領政策は緩やかなようだ。族長の後継者であり、唯一の殺人者であるナウシカにすら見張りさえつけていない。
見送りの子供たちからチコの実を貰い、ナウシカは人質としてクシャナのベジテ行きに同行。コルベット1機と大型船4機、つまり来寇した全機、人質の城オジ4人はナウシカと離されて、大型船の1つにロープ曳航された貨物用グライダー、バージ、に風の谷で徴発した食糧の見張りのためか、4人だけで乗せられている。クロトワたちは残留し巨神兵の復活を目指す。
飛び立った編隊はまもなくベジテのガンシップに襲われる。大型船は防御に弱く、次々と爆発炎上、バージを曳航していた船も誘爆する。かろうじてバージは曳航ロープが焼け落ちたらしく巻き添えは喰わなかった。コルベットがガンシップに応戦するが、ガンシップは巧みな操縦でこれをかわし、編隊最後の大型船、ナウシカの乗る船に狙いを定めた。
ナウシカは、飛んでいる大型船の翼上の開口部で、ベジテのガンシップに向かい、大声で制止する。
「やめて!もう殺さないで!」
ベジテのガンシップを操縦していたのは、ラステルの兄アスベルである。トルメキアの船団を見つけ、巨神兵強奪の仕返しにと襲撃したのだが、ラステルと同じ年くらいの少女が、船体の上に立って「やめて!」と叫んでいるのを見て驚いた。(実際に船体の上に立っていたのではないことは、前後のシーンを見ればわかる、突然の一瞬のことなのでアスベルにはそう見えたということ。前後のシーンのナウシカの服と船体上のナウシカの服が異なり、ナウシカのヘルメットが消えるのも同じ理由かと。)アスベルの銃撃ボタンを押し続けていた指が、一瞬のためらいを見せたとき、コルベットの玉がガンシップに命中、ガンシップが火を噴くのをナウシカは見た。煙を上げながら雲海の下へ墜落していくガンシップ。
ナウシカは船内に降り、風の谷のガンシップで、火の手が回り始めた大型船からの脱出を試みる。このとき火から逃げていたクシャナもガンシップの所に来る。「来い!」とナウシカ。クシャナを前座席にのせ、後席のミトにエンジンを起動させ、クシャナの横に立ちガンシップ正面の主砲で大型船に穴を開けて、同時にガンシップを全速発進させ大型船から飛び出るナウシカ、間一髪、大型船は炎を吹き上げ腐海へ墜ちていく。
バージ救出のために瘴気で満ちた雲海から、さらに瘴気の濃い腐海の真上へと降りていくナウシカのガンシップ。懐にはテトを抱いていた。やがてバージを発見、エンジンのない貨物グライダーのバージは、もはや墜落寸前の速度でかろうじて飛んでいた。瘴気の中で、マスクを外してほほえみとOKのジェスチャーで、バージに乗る城オジを安心させ、船の積み荷を捨て船体を軽くしてガンシップに続くよう指示する。
2機は、腐海の中にある湖に不時着する。
腐海は、上空での尖塔で墜ちてきた大型船などのために、蟲たちが興奮し、森の見張り大王ヤンマなど翅蟲たちは、いくつもの大きな集団となって飛び交い、地上の蟲も活発に動いていた。そしてこの湖は、王蟲の巣であった。
風の谷のガンシップに乗ったクシャナは、湖上で拳銃を取り出し、自分の指揮下にナウシカたち6人を置こうとする。クシャナが発砲したとき、王蟲が現れた。
湖底から次々と浮かび上がり、2機を取り囲む王蟲。腐海に害を為すものか否かを、確かめるように触手を伸ばす。ナウシカはその触手に身を任せる。さあ見て。ありのままの私を!
ナウシカは王蟲の触手に身をゆだねながら、さわやかな風の吹く草原に幼い自分が素裸で立っているようなすがすがしい気分になっていた、春の日の木漏れ日のような暖かさも感じていた。
突然王蟲の群れは、ナウシカたちの調べを止め、目を攻撃色の赤に染め、どこかに向かって動き始める。ナウシカは、自分たちより先に腐海に墜ちたベジテのガンシップの行方が気になっており、王蟲の突然の動きの理由は、そのことに関係するものだと直感した。
王蟲の群れに続き、ウシアブやほかの蟲たちも、攻撃色をあらわし同じ方向へ向かいはじめる。ナウシカはミトやゴルたち城オジに、自分が1時間で戻らなければ風の谷の城へ帰るよう言い残し、バージに積まれていたメーヴェで蟲のあとを追う。呆然とナウシカの飛んでいった先を見つめているクシャナの手から拳銃を取り上げて、ミトたちはナウシカの言に従う。
アスベルは蟲に追われていた。拳銃を撃ちながら逃げるアスベル。蟲はひるむどころか、数を増し、勢いも増す。地を這っている蟲の群れが次々飛び上がり、アスベルに体当たりしてくる。蟲から追われ、墜ちるように崖から飛び降りたアスベルを、湾曲した大きな剪定ばさみのようなキバを持つ、ムカデに似た体型で4枚羽で空中を舞う、細長い翅蟲ヘビケラに、胴を輪切りにされるのではないかと思ったそのとき、メーヴェのナウシカの手がアスベルをかっ攫う。ヘビケラはメーヴェの二人を追う。ナウシカは逃げようとするが、ヘビケラの長いしっぽの先にあるトゲのようなもので、メーヴェをはじかれ、二人は空中に放り出された。
放り出され気を失っていたアスベルが気づくと、そこは腐海の底の砂地。砂のクッションで怪我もしていない。ナウシカの瘴気マスクに手がふれ、みるとすぐ先にメーヴェと失神したナウシカが砂に半分埋まっている。近寄ろうとするが、砂地は柔らかく、しかも動いていた。流砂だ。懸命にもがいてナウシカに近づこうとするアスベルだが、メーヴェとともに二人は流砂に飲み込まれる。
ナウシカは夢を見ていた。王蟲の調べの時に思い浮かべた草原に、ちゃんと服を着て幼い自分がいる。王蟲の時の暖かさはない。むしろ淋しげな草原を、父ジル、早くに亡くした母、そして死んだ谷の戦士たちらしい人々が列をなして進んでいる。幼いナウシカは父に誘われてそのトリウマに乗るが、そちらに行きたくないと逃げ出す。人々が追う。夢野中で追われることで幼い頃の別の出来事を思い出す。「来ちゃだめ」と逃げる幼いナウシカ。夢は続き人々に囲まれるナウシカ。「なんにもいないわ!なんにもいないったら!出てきちゃだめ!」ナウシカの足もとから木の洞にかくまっていた王蟲の幼生が這い出る。父ジルに懸命にすがるナウシカ。「お願い!殺さないで!なんにも悪いことしてない!お願い…」。父ジルは幼生をつまみ上げ、どこかへ連れ去る。「虫と人とは同じ世界には住めないのだよ。」
夢から覚め、ナウシカは不思議なところに横たわる自分と、そばにいるテトに気がつく。頭上はるかに高く光さす穴が点々と開き、旧世界の欅のような広葉樹の大木の化石だろうか、それに似た植物なのか、直立する大きな樹木の化石が、天を支えるように連なっている。その樹幹が腐海の一段目の底になっているようだ。化石ではないかもしれないが、もう枯れてさらさらと砂に戻りはじめている。直立してるのが多いのは樹冠で支え合っているのだろう。木の中には根元から折れてしまったのか、大きな切り株のように見えるものもある。ナウシカは自分がそんな切り株の上に、誰かの上着を毛布がわりに寝ていたことがわかった。
そこへアスベルがメーヴェを担いで駆け寄ってきた。
「やあ!やっと見つけてきたよ。気分はどう?」
「ここはどこ?」
「まずお礼を言わせてくれ。僕はペジテのアスベルだ。助けてくれてありがとう。」
「私は風の谷のナウシカ。 - ここはどこ?」
「驚くのは当たり前さ。僕らは腐海の底にいるんだよ。ほら、あそこから落ちてきたんだよ。砂と一緒にね。」
「私たち、マスクをしてない!」
「そうなんだ。ここの空気は澄んでいるんだよ。僕も驚いた。腐海の底にこんな所があるなんてね。」
ナウシカはあたりを歩き、化石の大木に耳を当てる。その声を聞くかのように。
そしてアスベルとこれまでのことを語り合ったようだ。巨神兵のこと、ラステルのこと。
「ラステルは僕の双子の妹なんだ。そばにいてやりたかった。
すまなかった。妹を看取ってくれた人を僕は殺してしまうところだった。そうか。あいつは風の谷にあるのか。腐海の生まれたわけか。君は不思議な事を考える人だな。」
「腐海の木々は人間が汚してきたこの世界を綺麗にするために生まれてきたの。大地の毒を体に取り込んで、綺麗な結晶にしてから、死んで砂になっていくんだわ。この地下の空洞はそうしてできたの。
蟲たちはその森を守っている。」
「だとしたら、僕らは滅びるしかなさそうだ。何千年かかるか分からないのに、瘴気や蟲に怯えて生きるのは無理だよ。せめて腐海をこれ以上広げない方法が必要なんだ。」
「あなたもクシャナと同じように言うのね。」
二人は、明日、まずベジテに行くことにして、この日は、この腐海の底のもうひとつ底、Gのベクトルの向きが変わらぬパテマのガイアのようなところ、で、疲れを癒やすことにした。
その頃、風の谷では、巨神兵の復活作業が進んでいた。上体はほぼ固まったとの報告を受けたクロトワのもとに、今度はクシャナたちの船団が全滅したとの知らせが入る。陰にかくれて、それを聞いているユパのところに、ミト達が戻ったとの伝言が入る。
ミトたちは、海のそばの廃墟になった潜水艦のようなものの中にいた。、旧文明時代にはこの艦で他の星へ行っていたという言い伝えがあり、船影はバージニア級原潜に似ているが、少し傾いた姿といい荒れた大地に打ち上げられた感じが、宇宙戦艦ヤマトのテレビ第1期オープニングを思わせる。
ミトは、2時間たってもナウシカが戻らず、蟲は増える一方なので、やむなくナウシカから言われていたように、自分たちだけガンシップで帰ってきたと、ユパに詫びる。 ユパは無事をねぎらう。
ミトたちが連れて帰っていたクシャナを解放し、巨神兵を酸の湖深く沈め、本国へ帰ってくれぬか、と説得する。クシャナは、もう各国が巨神兵の存在を知った以上、トルメキアがベジテに行ったように、奪い合いが既に始まっている、という。
「お前たちに残された道は一つしかない。巨神兵を復活させ、列強の干渉を排し奴と共に生きる事だ。腐海を焼き、蟲を殺し、人間の世界を取り戻すに何をためらう!」
4.ペジテそして風の谷 (4日目)
風の谷では、大型船墜落の時の徹底した捜索でも、見逃してしまっていた胞子が見つかる。既に瘴気を出し始めていた。民衆は、武装解除で取り上げられていた武器にもなる農具などを求めて、城に駐留する残留トルメキア兵にせまる。指揮官となっていた参謀クロトワは、銃以外の道具を変換するよう指示。民衆総出の胞子退治が始まる。
クロトワは、ペジテに残っているはずの全兵力を、不穏な空気に包まれはじめた風の谷に集めるため、一機だけで舞い戻っていたコルペットをペジテに向かわせた。先にクシャナに率いられてペジテに向かった兵士たちは全滅し、谷に残る兵は僅かであったからである。なお、クロトワはまだクシャナ生存を知らない。
胞子退治の混乱の中、ユパはミト操縦のガンシップでナウシカを探しに行く。
谷の胞子の浸食は早く、貯水池を300年も守っていた森を燃やさざるを得ない。トルメキアが胞子を持ち込んだと民衆は騒ぎはじめる。
ナウシカはアスベルを連れて、メーヴェでペジテに向かっていた。アスベルはエンジンの上に腹ばい(熱くないの?!)、ナウシカは取っ手を持ちアスベルに並行に上方に浮いている。ナウシカは蟲の姿が見えないことに大きな不安を感じていた。
侵食が進みきった古い山岳地帯を抜け、砂漠に出るとアスベルがマスクを外してナウシカに言う。
「ペジテのほうがおかしい。何だろう?あの靄は」
ナウシカが彼方に何かを見つける。
「あっ。アスベル!マスクを着けて!」
砂漠に点々とやがて累々と、黒く焼け焦げた虫らしいものの死骸。
ペジテ市は、映画の敦煌のように、砂漠にある城塞都市だ。城壁は西欧の古城そっくりだ。城壁の周りにも虫の死骸が転がり、城内の数カ所から煙が上がっている。
城内は無人のようだ。あちこちで黒く焦げているのは蟲なのか人なのか。砲台や戦車などの武器も見え虫と戦った跡らしい。まだ炎を上げているものもある。アスベルはナウシカとともに城の中心部へ向かう。
城の中央部では王蟲が黒焦げになっていた。
「センタードームが食い破られるなんて…
ペジテはもう終わりだ。トルメキア軍を全滅させたってこれじゃあ…」
そこに大型旅客船ブリック゛が飛来する。ブリック゛にはペジテ市の多くの人々が乗り込んでいた。占領軍であるトルメキア兵の隙を見て、トルメキア戦での生き残りの住民が脱出したものと思われる。アスベルの母もいた。
アスベルはペジテ市の指導者らしい男と話す。男は言う。巨神兵が風の谷にあることは知っている。
「作戦の第二段も発動したよ。今夜にも風の谷のトルメキア軍は全滅だ。」
ナウシカは聞いて驚き、何をするか尋ねる。
虫におそわせるという。ペジテにトルメキア兵のみを残し虫に襲わせたのも、彼らの仕業らしい。
「なんてひどい事を…」と絶句するナウシカ。
「どうあっても復活する前に巨神兵を取り戻さなければならないのだ。世界を守るためなんだよ。分かってくれ。」
「それで谷の人たちを殺すというわけ!?やめて!すぐやめて!お願い!」
「もう遅いんだ!走り出したら、誰も止められない。
トルメキア軍に我々はほとんど殺されてしまった。もう他に方法がないんだ。
今は辛くても、巨神兵を取り戻せば、腐海を焼き、人間の世界を取り戻せるのだ。」
ナウシカは腐海の木々の役割を訴え、風の谷に行こうとするが、押しとどめられ拘束される。アスベルは助けようとするがそれもかなわない。ブリック゛の一室に閉じこめられるナウシカ。
酸の湖のそばの廃墟潜水艦を見下ろす断崖を上るクシャナ。潜水艦のミトたちから解放され、風の谷に向かうところらしい。やがて着いた山頂から谷を見下ろす。なにやら騒がしい。谷の村人たちはトルメキア兵に反乱を起こしていた。城オジたちが、城正門の空堀の橋上で砲を村落に向けていた戦車を奪い、史上最大の作戦のワンシーンのように、ひと暴れ。とうとう橋を壊してしまった。戦車をすべて出すように指示するクロトワの目に、闊歩して入場してくるクシャナがうつる。
「あ、生きてたよ。…短ぇ夢だったな。 殿下!」
風の谷の住民たちは、城を占領するトルメキア兵から逃れ、酸の湖へと山越えをする。城オジたちは奪った戦車1台でトルメキア兵を食い止めようとするが、トルメキアも戦車数台を出す。多勢に無勢、武器の練度も違いたちまち攻略され、城オジ3名は捕虜となる。
クロトワの命令でペジテに向かっていたトルメキアのコルベットが、ペジテのブリック゛を見つけ、空中戦の体制に入る。その頃、アスベル・ラステルの母が、閉じ込められていたナウシカを助け出す。ナウシカはアスベルのもうひとりの妹と服を取り替え、その妹がナウシカの身代わりに幽閉されていた部屋に残ったのだ。アスベルから話を聞いたらしい一族の人々も、ナウシカに仕打ちを詫びる。
ブリック゛に積んであった自分のメーヴェにたどりつき、ナウシカは飛び出す体制でアスベルがドアを開くのを待つが、開いていくドアから見えたのは銃撃をはじめようとするコルベット。ブリック゛は戦闘艦ではないので、逃げるしかない。雲海に逃げようとするが、風圧に船体が持たない。雲海から出たところで、コルベットに補足されトルメキア兵が乗り移ってくる。トルメキア兵に追い詰められるペジテの民たち。残るというナウシカにアスベルは自分たちのためにも谷へ行ってくれといい、ナウシカの乗るメーヴェを船外へ蹴り出す。
コルベットの機銃がメーヴェのナウシカを狙う。躱すナウシカ。空中を飛ぶナウシカの服装は、アスベルの妹の着ていた、白く大きい模様の着いた赤い上着と白いズボン。長靴を履いているが、瘴気マスクはなく、航空帽もない。コルベットの銃弾から必死で逃れるナウシカの目に入ったのは、正面から突っ込んでくる風の谷のガンシップ。
前席操縦席のミトはナウシカに手を振り、すれ違いざまにコルベットに機銃を放つ。見事命中し、コルベットは墜ちていき空中で爆発する。ガンシップ後席のユパが収容フックを出し、ナウシカのメーヴェを収容する。
ブリック゛の中ではペジテの民は最後の一室を除いて制圧され、トルメキア兵がドアを破ろうとしていた。ナウシカの服を着たアスベルの妹が船窓の外に何かを見つける。風の谷のガンシップだった。ユパが空中でブリック゛に飛び移る。辺境一の剣士の名は本物だ。戦況は一変しユパがトルメキア兵を制圧する。
ナウシカはミト操縦のガンシップで、酸の湖へ向かう。分解寸前の全速力だ。
日がおちた酸の湖のそばにある廃潜水艦には、風の谷の民が籠城していた。戦車数台を連ねたクシャナ軍と対峙している。クシャナは、民はナウシカとガンシップを待っているのだとクロトワに言う。続いて捕虜にしていたゴルたち城オジ3名を解き放ち、自兵たちに食事を取らせ、一時間後に攻撃を開始するるよう命じた。
ゴルたちが廃潜水艦につく頃、風の谷の風が止まった。大ババは大気が怒りに満ちていると言う。
ナウシカたちのガンシップは酸の湖まで3分の位置まで来ていた。雲海の下に降りても、腐海から抜けた頃だと考え下降する。地上では、おびただしい王蟲の群れが、攻撃色をあらわして風の谷へ向かっていた。ナウシカは、王蟲を誘導しているものはなにかと前方に目をこらす。何かを見つけ照明弾で照らしてみると、壺のようなものが王蟲の幼生を吊り下げて飛んでいた。幼生には金具のようなものに突き刺さっており、その金具をロープにつなげて吊り下げている。ほかにもミサイル弾のようなものがいくつか突き刺さっている。まだ死んではいないようだが、傷口からは青い体液が出ているようだ。この幼生が群れを呼んでいるのか、群れの成蟲が幼生の状態を感知して助けようとしているのかはわからないが、群れがこの幼生を目指して進んでいるのは間違いない。
ペジテの民が、王蟲を使って敵を滅ぼすやり方はこれなのか。幼生を囮に群れを誘導する。なんてひどい。ナウシカはこれを止めさせようと思い、ガンシップ後席からロープ伝いに曳航してきたメーヴェに向かう。武器も、瘴気マスクもない。
酸の湖では湖の対岸に上がったナウシカのガンシップの照明弾を、戦車上でクシャナが見ていた。クシャナは予定通りの攻撃開始を命じる。進撃中にガンシップが戻ってくる。クシャナは撃つなと命じる。着陸したガンシップに風の谷の住人たちが駆け寄る。クシャナとクロトワも駈けてくる。ナウシカをさがすがミトしか乗っていない。ミトが言う。
「王蟲だ!王蟲の群れがこっちへ来るぞ!姫様は暴走を食い止めるために一人残られた。戦なんぞしてる暇はない。みんな高い所へ逃げろ。急げ!」
廃潜水艦の上では子供たちが大ババの目となり、
「あ!ババ様、赤い光が見えます!どんどん増えてるみたい。こっちへ来るんだわ!」
「ババにしっかりつかまっておいで。こうなってはもう、誰も止められないんじゃ。」
王蟲の幼生は、壺(人が乗って飛行する瓶、以後、壺船と書く)からロープで吊されている。ナウシカは壺船の乗員と話をしようとするが、乗員の男は計画を邪魔するものは敵だと機関銃を乱射する。何発か体に弾をうけながらも壺船に飛び込むナウシカ。壺船はバランスを崩し地上におちる。
墜ちたはずみで砂漠に放りだされるナウシカ。壺船の乗員の男と少年、王蟲の幼生も砂漠に転がる。ナウシカは幼生に近づこうとするが、足の長靴のあたりには銃弾を受けており、肩も痛めたようだ。足を引きずりながら幼生に近づく。幼生は目を攻撃色に染め、酸の湖に入ろうとする。湖の対岸には群れの赤い目が動くのが夜でもはっきり見えている。ナウシカは満身創痍の体で幼生を押しとどめようとする。幼生が動くたび青い体液が噴出し、ナウシカの赤い服が青く染まる。幼生はナウシカより大きく力も強い。ナウシカが押されて酸の湖にナウシカの足が入る。その長靴は銃弾により穴が開いていた。
酸に足を侵され悲鳴を上げるナウシカ。その悲鳴に驚いたのか幼生の動きが止まり、後ずさりする。湖から出たナウシカは膝を押さえて倒れ込む。自分を妨げていたものが急に力を失い、あまつさえ倒れ込むのを見た幼生は、攻撃色を収め、何事かと触手を伸ばす。触手でナウシカを探り足の怪我を知り、そこが酸の湖で、傷のある体で入れば、王蟲であっても浸食されてしまう、それをこの人間は止めようとしたと理解したかのようにナウシカに寄り添う。
対岸の王蟲の群れは、幼生の方に向かっていない。幼生が人間から救ってくれとのSOSを発しなくなったのか、幼生が攻撃色を収めたため幼生の位置がわからなくなったのか、方向を失った群れは、風の谷の方に向かう。酸の湖そばで谷の住人と対峙するトルメキア軍の戦車らしいものが、王蟲の群れに発砲。群れはますます怒り突進を続ける。
砂漠に放り出されて気を失っていた、壺船の乗員も正気を取り戻していた。ナウシカは彼らの機関銃を彼らに向け、幼生と自分を、群れの先頭の先へ壺船で連れて行き、そこに下ろすように言う。
クシャナは巨神兵をよみがえらせて、王蟲に攻撃をかけるが、巨神兵は炎を一噴きしたものの、復活が十分ではなく、二噴きしようとしたまま腐って溶けてしまう。王蟲がトルメキア兵と風の谷の民たちの目前に迫ったとき、ナウシカが武器も持たずに幼生とともに王蟲の群れの鼻先へ降りる。群れの勢いは止まらず、はね飛ばされて、ナウシカの体は宙に舞う。
長い王蟲の群れの列の先頭が、風の谷への峠にさしかかる頃、列のまん中あたりにナウシカは死んだように横たわっていた。谷の住民はなんとか全員が潜水艦の上にのぼり、身を寄せて王蟲をやり過ごしていた。トルメキア兵はかなり王蟲にはね飛ばされていたようだが、クシャナとクロトワは王蟲に囲まれながらも、かろうじて無事だった。ユパとアスベルたちペジテ生き残りの民それに降伏したトルメキア兵が乗ったブリック゛が、ちょうどこのとき、酸の湖まで来ていた。
王蟲の群れが止まった。攻撃色も消えていく。大気から怒りが消える。群れの列の中央にいる巨大な王蟲たち七~八匹がナウシカを取り囲む。一匹が触手でナウシカを抱え上げる。そのまま捧げるように目の上、地上から20㍍くらいまで持ち上げる。ナウシカを囲んでいた残りの王蟲も、ナウシカに向け触手を伸ばす。
巨大な王蟲たちの触手は集まり、大きなひとつの光を放つ雲のようになり、その上にナウシカが横たわっている。巨大な王蟲たちの周りを幾重にも、群れの王蟲が取り囲む。
王蟲の触手が触れるとナウシカの長靴の穴はふさがり、死んでいると思われたナウシカが目を開く。ナウシカは目を覚まし下を見ると、巨大王蟲に寄り添う幼生が見える。ナウシカの体の痛みも消えている。触手の作る金色の雲は、雲と言うより触手1本1本が、まるで草原の草が風に吹かれているかのように動き、そこに立ち上がるナウシカの姿は、古き言い伝えのとおりであった。
その者蒼き衣をまとい金色の野に降り立つべし
王蟲がナウシカを地上に降ろす。風の谷の民は子供たちを先頭にナウシカの元に駆け寄る。王蟲の群れはゆっくり向きを変え帰りはじめる。再開を喜び合う人々。ナウシカ、ミト、ゴル、他の城オジ、村人たち、大ババ、ユパ、アスベルもナウシカに駈けより、ナウシカを両手で頭上に持ち上げる。人々とナウシカの笑い声。
エンドロール
砂漠に長く長く長く続く、風の谷を背にした王蟲の群れ。
巨神兵の骨がさらされる砂漠、クシャナと僅かに残ったトルメキア兵、そこに歩み寄るナウシカ、見守る多くの人々。
トルメキア辺境派遣軍の本国引き上げだろうか、あちこちに派遣していたと思われるトルメキアのコルベットの集結と、それに乗り風の谷をあとにするクシャナとクロトワ。
城オジたちの陽気な酒盛り。
風車で水をくみ上げるナウシカ。井戸の櫓の向こうには緑の木。
焼き払われた木の根株が連なる場所、貯水池の森のあと?に植樹された多くの苗木。
王蟲の脱け殻の目のドームをみんなで運ぶ村人。
風の谷を眼下に見下ろす、高台の斜面を、メーヴェふうのハングライダーで次々と滑空する村の子供たち。
トリウマで旅立つユパとアスベルをメーヴェで見送るナウシカ。その肩にいるテト。
ユパとアスベルは菌類の生い茂る腐海の森へ入っていく。
そこでは蟲がいつものように這ったり、とまったり、飛んだりしている。
ユパとアスベルの前の水面を悠然と横切る王蟲。
腐海の底の底、あの不思議に清浄な空間では、ナウシカの落とし物の飛行帽の傍らに、チコの芽が伸び始めていた。
風の谷のナウシカは、1984年のアニメーション映画。言わずと知れた宮崎駿作品。傑作の多い、宮崎駿作品の中で、私にとっては群を抜いて、最高傑作である。 もちろん全アニメ映画作品、ジブリ・ディズニーその他全世界のすべてのアニメ映画の中でも、他を寄せ付けず、私の中の№1の地位を、公開以来保持し続けている。(このページを書き始めるまで、40年間私はそう思っていた。あとで考察する。)
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意外なことに、何度も(日本テレビ系金曜枠だけでも同一フィルム最多の15回)テレビ放映され、世間的にも、人気も評価も高いのだが、いい解説記事が少ない。ネット上では「これだっ!」というものになかなか出会えない。
ひとつには作者、宮崎駿が漫画「風の谷のナウシカ」を1982年から1994年、中断4回をふくむが満12年間にわたり、徳間書店月刊アニメージュに連載、全59話コミックス7巻、を描いてきたからであろう。作者が長年手がけたものが本物のナウシカで、連載の初期1984年にちょこっと出したこの映画は、いわばスピンオフ、という雰囲気が漫画のナウシカファンにあることは否めない。
そして、ネットでは漫画「風の谷のナウシカ」を解説したものの方が多く目につく。そして、それらにはたいていこう書かれる。「映画のナウシカとは、まったく別のものと思っていただきい。」
だが、ヲタクなにするものぞ。私はこの、アニメ映画を好きだし、ネット上での解説を見る限り、漫画版ナウシカは確かに別人の観があるので、映画のイメージを損なわないためにも、敢えて漫画は見ないことにした。(目が悪くなり、メガネをかけると頭が重くなるから、一切のコミックを読まなくなったため、だけではないっっっっっっっ)(ペーパーに書かれた活字もほとんど読まなくなったが…)。
地球というものから見れば、人間はやはり卑小な寄生虫にしかすぎないのか。
だが、この寄生虫は知性を持つ。
知性は単なる力ではない。相手を思いやるというほど、大それた思い上がりである必要もない。
ただ相手の立場で考える。自分と相手とを置き換えたときどうあるべきかを考える。
それができるのが知性だ。
相克ではなく共存できれば、それが一番だ。だが、相手が一方的にこちらに敵意を燃やす場合はどうする。
ここに言う相手とは、例えば自然であり、例えば地球であり、宇宙であり、神であるとしたら。
「風の谷のナウシカ」と、その続編といわれる「もののけ姫」に共通するテーマのひとつだ。
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実は、こう書くことに既に思いこみがある。思い上がりに近いものなのだ。
共生とか共存とかいうのは、人間と自然とを別物としてとらえている言葉である。みずから本体とは別の寄生虫だと認め、しかも知性は自然に対抗できる大きさのものだと自慢しているにすぎない。
人間に、完全な人間はいない。どんな聖人君子でも感情があり、激情に駆られれば過ちも犯す。
自然は、まさに自然である。天変も起こせば地異も起こす。人間もその中にふくまれている。
つまり、包括しているものが包括されているものに一方的な敵意を持つことなどはあり得ないのだ。
それは、ほとんどの場合、包括されているものの思い込みにしかすぎない。自己の敵意か疑心暗鬼の鏡面反射にしかすぎない。
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自然として生きる、などと言うことではない。
ただ、そういうことも含めて、人間とは何か、自然とは何か、人間は自然にふくまれるものなのか、自然と同格に自然と共に生きるべきものなのかを、じっくり考えてみよう、というのが、この映画の真のテーマだろう。答えは映画の中にはない。ヒントもここに書いたこと以外にはないだろう。
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この映画をざっと見ただけでも、出てくる次のようなテーマは、上に掲げたテーマに沿った物語を作るときに、副次的に産み出されたものであろう。もちろん、これらの問題も、おろそかにしてはなるまい。
酸性雨、環境問題、自然破壊、核問題、人間の愚かさ、自然の再生能力、軍事国家思想、必要悪の国家、大量破壊兵器、絶望と希望の間を揺れ動く人生、進歩と進化の違い、異なる思想の人々との共存共栄、自然との共生、愛すると言うこと
考察1 ナウシカの殺人
考察1に関連して、悪役・敵役の小物キャラでも人は人、人命をあまり軽く扱って欲しくない
考察2 王蟲・腐海・巨神兵
考察2に関連して つまり、新世紀エヴァンゲリオンは庵野流「火の七日間」だった
考察3 巨大産業文明、セラミックの時代
考察4 広葉樹
考察5 腐海研究室
考察1 ナウシカの殺人
上記、解説の冒頭部分に、この映画は私の中で、全世界のアニメ映画のナンバーワンだとこのページを書き始めるまで、40年間私はそう思っていた。あとで考察する。と書いた。考察はそこからはじめよう。
ジルの部屋で、床の上の死んだジルと、それを取り囲むクロトワとその従卒を見て、文字通り怒髪衝天、怒りに我を忘れて、みずからの剣で従卒たちを斬り殺すナウシカ。城に入るとき聞こえた銃声と従卒の持っていた銃だけで判断し、誰がなぜジルを殺したのか確認していない。無謀であり理不尽とも言える。
ここで作者は、人間の愚かさ、心の弱さ、「完全な人間はいない。どんな聖人君子でも感情があり、激情に駆られれば過ちも犯す」ことをあらわしたのだろう。確かに、このシーン以後のナウシカの「非暴力不服従」の徹底は、驚嘆すべきものがあった。贖罪の意志が強く働いていたのかもしれない。それでも、壺船の男を機関銃で脅すなど、まだ感情を抑えきれてはいない。そのことで、人間の激情は信念すら忘れさせるほどのものだ、ということをあらわしたかもしれない。それなら逆に、16歳の少女がこれからの生涯、背負い続けなければならない罪として、複数の殺人は重すぎるのではないか。
さて、では実際どうだったのか、蛇足ではあるが推測する。
コルベットを城に近接して滞空させ、乗降ラッタルでクロトワと従卒が城に乗り込む。ベッドの上で剣を抜き身構えるジルを取り囲み、銃を構えて巨神兵を渡すようにせまる。おそらくジルは「知らぬ」と応えたのだろう。知っていたとしても、軍事大国に渡す気はなかっただろうし、巨神兵のことをユパから聞いていたかは定かではないので本当に知らなかったのかもしれない。
どちらにしても、クロトワたちがドアを開ける前から、剣を抜いていたジルが、穏やかに話し合ったとは思えない。おそらくジルがクロトワに剣を向けたため従卒が発砲したのだろう。銃声が1つではなく、一斉でもなかったから、号令によるものではないし、1対1でもない。あわてて、パン・パンと撃った感じだ。直後に、部屋に飛び込んできたナウシカに従卒たちはみんな殺された。
そのすぐあとに、室内に入ったユパは、このままではナウシカが殺人者としてトルメキアに裁かれると判断したのかもしれない。この事件を、事件でなく戦争にしようとした。それがあの口上である。
戦争を仕掛けるなら、その作法を守れ、無礼にも突然、奇襲するとは何事か。 と、述べることで、トルメキアの行為を、巨神兵強奪という強盗脅迫行為ではなく、奇襲という戦時行為に仕立て上げたのだろう。平時なら強盗や殺人は犯罪だが、戦争中の相手国に対しては堂々たる軍事行為であり犯罪ではない。
王蟲の巣の湖で王蟲の触手に調べられたとき、ナウシカは自分の犯した殺人についてはみじんも思い浮かべなかったのか?少なくとも画面上は、その件に関する後悔も反省も、表現されなかった。
ナウシカにとって殺人は、それが犯罪でなくても、そう簡単に忘れ去れる行為だったのか?
この点は、作者に問うてみたい。
画面上はあらわされなくても、実際のナウシカには、贖罪の意識が常に働いていると信じている。しかし…
殺人という劣悪な行為をナウシカにさせることで、人間の弱さ、理不尽さを強調すると言う作者の意図はわかる。だが、甘いとか予定調和だとか言われても、障害そしてエンドロールでの見舞い、程度で済ませてほしかった。微妙に心残りがある。今回、このページを書くに当たり、どうしてもこの残念さが払拭しきれず、この点で、この映画の評価は、不動のナンバーワンから暫定ナンバーワンへと降格したのだった。
考察1に関連して 悪役・敵役の小物キャラでも人は人、人命をあまり軽く扱って欲しくない
世界中のアクション映画や、日本の時代劇でも、人の命は軽くあつかわれる。ましてや、悪役とか敵役と呼ばれる人の、部下・手下・雇人など小物・雑魚・モブキャラは「人間がごみのよう」に扱われる。
「懲らしめてやりなさい」の一言で、家族を養うために代官所に努めていた善良で正義感にあふれた一下級役人、いわゆるエリートではないふつうの公務員、が悪代官の手先ということになり、悪役として、助さん角さんにバッタバッタと斬り殺される。助さん角さんも同じ公務員だったはず。自分たちが知らないところで、水戸黄門が悪事を働き、そのため自分が出会い頭に殺されて平気なのだろうか。あるいは、助さん角さんに殺された者たちの妻子が、父の敵を討つため精進し、水戸黄門をラスボスとして葬り去ったとすれば、助さん角さんはどうするのだろう。いつも気になっていた。
そういう映画の極端な例として、シュワちゃんの出世作コマンドー。やはりアメリカ人は、自分たちの考え方と異なる者は「悪人」であり、殺されなくてはならない者だと思っているようだが、門番とかガードマンが、思想的にそういう平均的アメリカ人と異なる「悪人」なんだろうか?その家族は?
「単にそこにいただけの悪役」、言葉に矛盾があるのを承知で言えば、「善意の悪役」が殺されるたび、心を痛めながら映像を見ている人も、結構いるはずだが、それを指摘する記事が少ない。
バッタバッタと人が死ぬことに、カタルシスを感じる者もいるだろう。それが見る側にとっても「悪人」ならなおさら。しかし、それを快く思わない者も多いことを、製作する側は心に留めていて欲しい。
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原作漫画ではどうなっているか不明だが、アニメ映画で見る限り、この風の谷vsトルメキア戦役で死亡したのは、風の谷側では、戦の前でも病で立つことすら適わなかった族長、ジル1名のみ、トルメキア側は、ナウシカに有無を言わさず殺されたクロトワの従卒たち4名。 ユパのおかげで何と犠牲の少ない戦役であったことか。しかも平常時ではなく戦時とみなされたことで、ナウシカは殺人罪に問われないようだ。しかしやはり、命乞いをする間も与えられずに殺された、従卒の妻子や両親・関係者に哀悼は捧げておきたい。
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考察2 王蟲・腐海・巨神兵
王蟲を、人間の犯した愚かな行いの象徴となる存在のように見ている解説もあるが、的外れだろう。私は、はじめ、王蟲は、地球の代理人、または地球の化身で、地球を傷つけるものを廃し、地球を守る意志の具現したものと思っていた。
腐海についても、同じように、はじめは、腐海は人間が穢した地球をもとに戻すために、自然が生んだ地球浄化装置のようなものだと思っていた。
巨神兵は、「核兵器の破壊力と、その後の地球環境に与える後遺症の象徴」のような解説は採らず、単純に、人間が「神のごとき力を持つ、人型決戦兵器」(どこかで聞いたな~)として作ったものと、はじめは、考えていた。
ネット上に多数ある「漫画版ナウシカ解説サイト」で、これらがすべて、かつての巨大産業文明の花形科学のひとつであった、遺伝子工学から産み出されたものであるらしいと、知るまでは。
王蟲、腐海、巨神兵だけではなく、トリウマやキツネリスなどの動物をはじめとして名前が出てくる動植物のほとんどが、旧文明の遺伝子操作の遺産であった。
それにしても、腐海の底の樹木といい、巨神兵といい、物質が化石化するのが異様に速い世界だ。千年たたずに化石化するなら化石燃料には事欠くまい。
漫画未読の私が、ネットの解説から得た漫画ナウシカの世界の話。知は力と巨大産業文明を築いた旧人類は(あるいは旧人類の誰かが)、自分たちが穢した旧人類そのものもふくむ地球環境を浄化して、理想的世界を作ろうと、発達していた遺伝子工学の粋を凝らして、システム遂行者として巨神兵をつくりあげ、浄化システム、有毒物質を結晶化して安定させる方法としてやはり遺伝工学により菌類を造りかえた腐海を作り、腐海を広げ守るものとして王蟲を作った。そのほか、動植物のほとんどをその目的のために造りかえたらしい。
すなわち、映画ナウシカに登場する動植物は、それが漫画版と同じならば、人間も含めてすべて、かつての巨大産業文明の遺伝子工学の遺物であるということ。
つまり、腐海も王蟲も、地球または自然が、みずからの環境浄化のために自然に産み出したものではなく、旧人類がその行動も目的もシステムとして作り出したもの、ということらしい。
漫画版では、たとえその種が人工的に作られたものであっても、人間には知性がある。動物にも植物にも今生きている生存の権利がある。計画されたシステム通りに進めば、浄化された理想の世界ができるかもしれないが、穢れそのものである人類は、一度滅びて作り直されることになる。
漫画ナウシカはそのように決められたシステムを破壊し、みずからをふくめた世界すべてを、遺伝子工学・遺伝子操作によらない自然の進化にゆだねる、と言う話らしい。
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自然だと思っていたものが実は人工的に作り出されたものだったというどんでん返しは、考えてみればジブリ作品にはつきものかもしれない。●●はこういうものとかこうあるべきとかいう、類型化プロトタイプ化をいやがるようだ。アニメ作家としてはそうあるべきで、予定調和を避けるから面白いとも言える。
自然に優しいジブリとか、女性の権利を訴えるジブリとか言われると、単にそれだけではないのだよと切り返す。宮崎さんの少年の心だろう。
考察2に関連して つまり新世紀エヴァンゲリオンは庵野流「火の七日間」だった
計画されたシステム通りに進めば、浄化された理想の世界ができるかもしれないが、穢れそのものである人類は、一度滅びて作り直されることになる。
これはまるで「Air まごころを君に」を見ているようではないか。「Air まごころを君に」での人類補完計画では人間のみが浄化され、世界はまだ焼き尽くされていないが、「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」ではどうなるのか。期待していいのかな?
考察3 巨大産業文明、セラミックの時代
巨大産業文明、高度機械文明の果てに待っていたものは破滅であった。
人類はみずから育てた文明を守るためにではなく破壊するために兵器を作り続け、もはや憎しみではなく機械的に戦争を繰り返したあげく、大量殺戮兵器の開発にいたる。核兵器、細菌兵器、化学兵器。人に役立つものであったはずの道具は、それを作った人類を滅ぼすために使われることになる。
映画では「火の七日間」については、巨神兵が世界を焼き尽くしたことしか語られない。巨神兵がどこから来たのか、作った国があるのならそれがどこなのか。すべて謎のままである。漫画版では巨神兵は、浄化システムの担い手なので、みずからを滅ぼした人がいたのだろうか?
映画冒頭の文字説明は、
「 巨大産業文明が崩壊してから1000年、錆とセラミックに覆われた荒れた大地に、くさった海…腐海(ふかい)と呼ばれる有毒の瘴気を発する菌類の森がひろがり、衰退した人間の生存をおびやかしていた」
とだけしかない。
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この巨神兵を単に核兵器の象徴とは見たくない。画面上、確かに巨神兵の化石とおぼしきものが存在しているし、核兵器なら世界を焼き尽くすのに7日間もかからないだろう。ある国が核発射ボタンを押せば、狙われた国は迎撃ミサイルを発射し、自国到達前の破壊を試み、1発でもその破壊に失敗すれば、報復ミサイルを発射するはず。自動報復システムの噂も真実味を帯びて存在する。ものの数時間で地球表面は何度も焼き尽くされるとか。巨神兵が核兵器の象徴ではないにしても、火の七日間で核の放射能がまき散らされ、地球全体を覆ったのであろうことは容易に想像がつく。
巨神兵の目的は、巨大産業文明を焼き尽くすことであったため、かつての文明が誇っていた技術をはじめ、文化・宗教などは、生き残った人々には僅かにしか伝わらなかった。
映画の時代背景を以上のように考察した。
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漫画版では、「火の7日間」以前
遺伝子工学が極度に発達していた。「航空技術も発達していた。巨大な航空機があり、星間を旅する宇宙船があった。空間をねじ曲げて飛行する技術があった。原子核力の制御やロボット工学・人工知能技術が発達していたことも、「巨神兵」を見れば推測できる。
セラミック時代(火の7日間以降)
新たな技術の発展はなく、過去の知識も失われている。前時代の超硬質セラミック製の大型星間宇宙船などを石器時代の石器のように切り崩して使用している。新しく作ることは出来ないが、部品を集めて飛行機を作ったりする技術は伝えられている。つまり、理論の裏付けの無い試行錯誤の時代とも言える。
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なぜ大地がセラミックに覆われたのかも不明だが、ひとつには巨大産業文明時代セラミック義歯術が進んでいたことが漫画版解説でわかる。もう一つ考えたいのは電気配線。映画の中で、電気についての情報が少ない。電柱や高圧線は見えないし、電気機器もなさそうだ、ナウシカの腐海研究室の空気と水の循環システムも風力らしいし、電気使用の可能性は極めて少ない。
「火の七日間」で焼き尽くされた文明の担い手が電気、特に核発電によるもの、だとしたら、その部分は徹底的に破壊され焼き尽くされ、復興できないようにされただろう。電気配線では、もちろんコードには「銅」を使うが、高圧塔その他「鉄」も多く使われ、コードとそれ以外のものとの絶縁には「がいし」が使われる。陶器ではなく磁器らしいが、この「鉄」と「がいし」が錆とセラミックと表現されているのではなかろうか。すなわち焼き尽くされた文明は、その破片が大地を覆い尽くすほど発展していた、電気文明だった!?
考察4 広葉樹
漫画版では樹木も遺伝子操作で造りかえたらしいが、映画では菌類・腐海以外で樹木に関する話として貯水池の森の話がある。
トルメキア船にくっついて運ばれた胞子が、瘴気をだすほど成長したので焼き払うしかなくなったとされる森である。風の谷の土も汚れたものであることは、胞子が瘴気をだすことからもわかるが、そんな土で、明らかに広葉樹と思われる森の木々は300年間も貯水池を守っていた。
この木をもっと増やしてもいいんじゃないかな。腐海より浄化作用はおちるだろうが、10年ですむところを1000年かければ、腐海より安全だし人類に役立つはず。
広葉樹が存在していることは次のことからも明らかである。
王蟲の巣である腐海の湖で、王蟲の触手がナウシカを調べるようにナウシカの体に触れたとき、ナウシカは木漏れ日の暖かさを思い出す。この暖かさの象徴としたと思われる木漏れ日であるが、画面を見る限り広葉樹の樹形だ。 また幼い頃の記憶として、ナウシカが王蟲の幼体を木の洞(うろ)らしき所でかくまっているが、これも見るからに広葉樹だ。
なんだ。種子植物も存在しているではないか。ナウシカたちの衣類だって、化繊ではあるまいし、獣皮でもない。綿花や麻も存在しているに違いない。
考察5 腐海研究室
風の谷の城の地下にあるナウシカの秘密の部屋。ここの植物たちは腐海の菌類のうち光合成をしないものを集めたようだ。ナウシカが在室しているときでも燭台の明かりだけしかなさそうだし、地下もかなり深そうなので明かり取り窓もなさそう。
また菌類だから、養分補給と適当な湿度と温度さえあれば、十分繁殖できると思うが、なぜかここの菌類は、清浄な水の供給が止まると死に絶えるという。それが本当なら、腐海を絶やすのは簡単な気がする。ナウシカの研究の成果に期待しよう。
ネットで見つけた「ドイヒーな俺の脳みそ日記帳」というブログの「風の谷のナウシカ|映画版の説明・解説(ネタばれ)」というページにこんな記事があった。転載する。
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ここで、僕が一言言いたい事、そして、あまり皆が触れていない事があります。
それは『音』です。
BGMだけではなく、風の吹く音、虫の羽音、虫の鳴き声、セラミックの刃が欠ける音
そして、イベント発生時の音楽の切り替わりなど、本当にこの映画は音に対して相当集中力を高め製作していると感じました。
特に映画序盤で、その音による表現は徹底されており、物語は何も動いていないのに、聴覚だけで涙が出そうになるほどです。
(中略)
風の谷のナウシカという映画は、単にストーリーを追いかけたり、映画のメッセージを考えるのではなく、
その絵や音という芸術を感じる所に、本当の深みがあると個人的に感じております。
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この点だけは肯ける。関連してBGMは、久石譲の繊細緻密な音楽が素晴らしい。
この春もある吹奏楽団が、交響組曲「風の谷のナウシカ」3章Ⅰ風の伝説Ⅱ戦闘Ⅲはるかなる地へ、を演奏するのを聞いた。楽曲単独でも傑作だと思うし、よく耳にもする。
それとは別に
作詞/松本 隆
作曲/細野晴臣
歌 /安田成美
1984年
金色の花びら散らして
振り向けば まばゆい草原
雲間から光が射せば
身体ごと宙に浮かぶの
やさしさは見えない翼ね
遠くからあなたが呼んでる
愛しあう人は誰でも
飛び方を知ってるものよ
風の谷のナウシカ 髪を軽くなびかせ
風の谷のナウシカ 眠る樹海を飛び超え
青空から舞い降りたら
やさしくつかまえて
花や木や小鳥の言葉を
あなたにも教えてあげたい
何故人は傷つけあうの
しあわせに小石を投げて
風の谷のナウシカ 白い霧が晴れたら
風の谷のナウシカ 手と手固く握って
大地けって翔びたつのよ
はるかな地平線
風の谷のナウシカ 眠る樹海を飛び超え
青空から舞い降りたら
やさしくつかまえて
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安田成美は1983年、『風の谷のナウシカ』のアニメ映画化にあたって募集されたイメージガールのオーディションで約7500人の中からグランプリを獲得。この歌を歌っていた当時の、17歳の彼女の、透き通った凛とした姿は、ナウシカにも通じるものがあったが、今では想像できないかもしれない。歌は上手いとはいえなかったが、透明感があり、オリコンシングルチャートでも10位にランクインされるヒットとなった。
当初、主題歌となる旨が発表されていたが、宮崎と高畑が本作の内容と楽曲の乖離等を理由に反対、映画本編には使用されなかった。しかし、予告編などの映画プロモーション用のイメージソングとして使用され、エンディングタイトルにもクレジットが刻まれている。
私は、リアルタイムでこの歌と安田成美に興味を持ち、本編を期待を持って見た記憶がある。結果は期待以上どころか、アニメ映画についてのそれまでの認識を変えざるを得ないほど奥深く、何度も繰り返し見なければならなくなるほど、衝撃的なおもしろさを持つ作品だった。
-風の谷のナウシカ- おわり